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【アクテムラとわが研究人生 vol.39 エピローグ】

2025.05.27

エピローグ

大杉バイオファーマ・コンサルティングの決起式(2015年6月)

 

「和而不同」は、オープンイノベーションやdiversityに通ずる

 

 自己免疫疾患は遺伝的素因に環境要因が加わり発症するといわれているが、治療の進んだ今日においても根本的原因はなお不明である。とはいえ、アクテムラが関節リウマチ患者に対して著明な臨床効果を発揮することから、IL6というサイトカインが関節リウマチなどの自己免疫疾患の発症、病態の進展に主要な役割を演じていることが明らかになったのは近年の長足の進歩と言って良いであろう。昨今、早期診断技術が進歩し、アクテムラによる早期治療が開始できるような時代がすぐそこまで近づいているようで、今後、関節破壊により日常生活動作に支障を来すような患者が世の中からいなくなる時代が到来することを心待ちにしている。

 

 若い頃の自分に「我が研究人生」の方向を決定付けたカルフェニールという関節リウマチ治療薬が抑制性T細胞の活性を強化する免疫調節剤であったこと、そして、それから約20年後、最後にたどり着いたアクテムラという革新的治療薬に制御性T細胞の誘導を促進する効果が認められたことに、何か不思議な因縁めいたものを感じざるを得ない。かつての抑制性T細胞と現在の制御性T細胞は、名前も内容も全く異なるT細胞群であるが、過剰な免疫を調節するという機能を有している点では共通している。すなわち、自己免疫疾患は免疫の抑制(制御)機能が低下して発症・進展するということを物語っているのであろう。それにしても、このようなIL6というまれな標的分子・疾患関連遺伝子に遭遇できた自分は実に幸運だったと思う。

 

 ここまで38回にわたって、生い立ちに始まり、中外製薬に入社後、自己免疫疾患の根本的治療薬の開発を目指して病因究明に関する基礎研究を開始し、そこから生まれた着想であるB細胞阻害薬の探索を進める中、IL6と出合い、IL6阻害剤としてヒト化抗IL6受容体抗体を開発することを決断し、自己免疫疾患の画期的新薬の誕生にたどり着くまでの歴史・過程を紹介した。2017年8月10日に73歳の誕生日を迎えるが、今後もイノベーション創出に向け挑戦する若手研究者を支援する立場で活動できることを願って止まない。

 

 本連載を書き終わってみて、成否を決めたキーポイントは何だったのだろう、画期的新薬の研究開発をけん引し、成功に導くノウハウを、連載を読んでいただいた若手研究者の皆さま、あるいは上司・指導者の方々に十分伝達できたであろうか、と自問する。強い使命感に支えられた夢、それを実現させるための他人の何十倍もの努力、情熱、粘り強さ、そしてコミュニケーション能力があれば、幸運が味方して成功者となれるのだろうと思う。もし、プロジェクトが途中で撤退に陥れば自分の将来が無くなると思い、行動を起こさないのは一番の負け組であろう。果敢に挑戦する勇気が必要と思う。

 

 父は教育者であったので私に機会あるごとに色々なことを教えてくれたはずである。しかし、もしかしたら、人生訓のようなものは何も言ってくれなかったのかと思うほど、全て忘却した。この連載を書いているさなかに、私の結婚披露宴の記念アルバムをめくったところ、「和而不同」と書家でもある父がサインペンではあるが揮毫(きごう)しているのに気が付いた。「和して同ぜず」は、論語「君子和而不同」からの引用である。結婚する私たち2人に対して、そのような夫婦であれとの父からのメッセージと理解していたので、私はこの言葉を自分の仕事の場で意識していたつもりはないが、今研究人生を振り返ると結果的にこの言葉通りの研究人生を送ったような気がする。そしてその果実がライフワークとなったアクテムラ誕生だと思えてきた。論語は「小人同而不和」と続くが、これでは「1+1 < 2」となる。「和して同ぜず」は、協調しながらも互いにへつらって機嫌を取り合うことはないので「1+1 > 2」になるという意味だろうと自分流に解釈している。

 

 昨今、「diversity」が「innovation創出」に重要であるという指摘をよく聞くが、特に異分野の研究者との「和而不同」が日本人の弱点といわれる「無から有を生む」創造的思考に欠かせないポイントであると思う。

 

 書ききれないほど多くの諸先生方、上司、先輩、仲間から多大な支援を受ける幸運に恵まれたことを思い、大変幸せ者であるとあらためて思う。私を育ててくれた両親、兄姉、そして研究バカの私を全面的に支え続け、激励、援助、時には優れた助言をしてくれた良妻、また親思いの愛しい3人の子供たちに心底より感謝している。“Nobody lives on an island.”「誰も1人では孤島で生きていけない」。以前、部下の結婚式の主賓として招かれた折の祝辞に引用した言葉を思い出した。まさに自分自身の人生がそうだったとあらためて痛感する。

 

 最後になりますが、長い間、本連載をお読みいただいた皆さまに厚く御礼申し上げます。

 

 

初出:日経バイオテクONLINE 2017年6月19日掲載。日経BPの了承を得て掲載

 

 

 

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