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【アクテムラとわが研究人生 vol.33 ユニークな特徴】

2025.04.16

ユニークな特徴

アクテムラ治療後の血中IL6レベルの推移。日本での第II相試験でACR70 (米国リウマチ学会が定めた効果判定基準で、改善率70%を示し、臨床的寛解に相当)を達成した患者20人の血中IL6値は正常値に収斂した。一方、ACR70を達成できなかった患者35人(Failure群)ではIL6の減少は、認められなかった(Ohsugi & Kishimoto, Current Rheumatology Reviews, 2011)

 

 

IL6と関連する関節リウマチの諸症状

 

 

 

 

 

 

 

 関節リウマチ患者を対象とした臨床第II相試験のキーオープン時に有効率を見た医学専門家の西本憲弘先生が、「アクテムラの有効率が90%に達すると思ったのだが……」と残念がったことについては第31回で紹介した。このときの先生の言葉は、その後日本で実施された第III相試験で見事に裏付けられることになる。SATORI試験と呼称された試験の結果であるが、著効・有効を達成した患者の割合が98%に及ぶという驚異的に高い有効率が報告されたのである(Nishimoto, Mod Rheumatol., 2009)。

 アクテムラはヒト化抗体なのでキメラ抗体に比べ、免疫原性は低く、その上にIL6が活性化B細胞に働き抗体産生細胞に分化させる作用を抑制するので抗アクテムラ抗体(HAHA:human anti-humanized antibody)の産生を阻害することができるという特徴がある。キメラ抗体の場合は、抗体に対する抗体(HACA: human anti-chimeric antibody)を誘導する可能性が高いので、これを防ぐ目的もあって抗リウマチ薬「メトトレキサート」との併用が必要となるが、アクテムラは抗アクテムラ抗体誘導の程度が低いので単剤で使用でき、有効性を発揮するのが利点である。さらに強調すべきは、単剤でメトトレキサートとの直接比較試験で優位性を示した世界で初めての生物学的製剤であるという点である(Ambition試験)。

 最新の『EULAR recommendations 2016 update』(欧州リウマチ学会による治療推奨)では、csDMARDs (メトトレキサートなどの従来の合成系疾患修飾性抗リウマチ薬)で治療を始め、3カ月間の使用後に効果不十分の場合、生物学的製剤もしくはtsDMARDs (JAK阻害薬のような分子標的型合成系DMARDs) を上乗せして併用(現状では生物学的製剤が選択されている)するものとしている。そして、csDMARDsが併用できない場合の単剤使用による治療においてはIL6阻害薬とtsDMARDsが他の製剤に比して優位性があると記載された。今回のリコメンデーション改訂ではアクテムラの国内外でのエビデンスが多数引用されており、このEULARリコメンデーションによってアクテムラの利点の1つである単剤での治療効果が世界的に認められることとなった。

 また、興味深いことに、治療後数日から2週後に症状改善効果が認められるケースもあるが、他の症例では症状の改善が緩やかにおき、3、4カ月程度の日数を要することもある。これは、関節リウマチで病因的な役割を演ずるT細胞とその働きを抑制する制御性T細胞の分化誘導におけるバランスの破綻にIL6が関わっているからではないかと考えられる。少なくともマウスにおけるコラーゲン関節炎や実験的アレルギー性脳脊髄炎のモデルにおいてはMR16-1(以前紹介したマウスIL6受容体に対するラットモノクローナル抗体)の投与でIL6のシグナルを遮断するとTh17細胞が減少し、それに伴って関節炎や脳脊髄炎の発症が抑制されることが報告されている。Th17細胞が産生分泌するIL17は、炎症局所に各種炎症性細胞を遊走させ、TNFαをはじめとする様々なサイトカインの産生を促すことで炎症の進展に深く関わっている。

 最近、Kikuchiらによってアクテムラの治療を受けた関節リウマチ患者の末梢血中では制御性T細胞数が増加することが報告された(Arthritis Res.Therapy,17(1),[10],2015)。しかも、重要な点は、制御性T細胞数の増加と臨床効果に相関性が認められ、臨床的寛解を達成した患者で最も顕著な増加が認められたことである。ただし、この論文によると、Th17細胞数には変化が認められていないので、上述のマウスで得られた結果とは趣を異にしている。なお、メモリーB細胞や活性化モノサイトの数も減少するが、臨床的有効性との相関は認められなかったとのことである。

 いずれにせよ詳細なメカニズムに関しては今後の研究結果を待つ必要があるが、アクテムラの投与を開始してから、制御性T細胞数と病因性T細胞数のバランスが正常な状態に戻るまで一定の時間が必要なので、効果の出現に少々時間がかかるのではないかと私は考えている。しかし、このことは、同時にアクテムラは単に抗炎症作用によって炎症局所の症状を改善するだけの薬剤ではなく、異常な免疫のバランス状態を是正して根本から修復するように働き、病気の原因に近いところで作用することが期待できるユニークな薬剤であると考えられる。

 このような考えは、アクテムラの投与で臨床的寛解を達成した患者の血中IL6レベルはアクテムラを投与するたびに徐々に正常化に向かって減少しているし(図参照)、同様に軟骨破壊の原因とされる酵素のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)3の血中レベルについても治療期間の延長に伴って正常値に回復することからも裏付けされている。

 一方、関節局所における病態を見ると、IL6によって産生誘導される血管内皮細胞成長因子(VEGF)によって新たな血管が形成される。この新生血管を介して滑膜組織に栄養や酸素が供給され、組織の肥厚/増大が誘起される。アクテムラはVEGFの産生を抑制することによって血管新生を阻害し、関節滑膜組織の増大を防ぐ。

 

 また、IL6は滑膜線維芽細胞様細胞上に、破骨細胞を誘導する際に必須の分子であるNFκB 活性化受容体リガンド(RANKL)の発現を促すことが明らかにされ、破骨細胞の分化・増殖に深く関わっていることが知られている。従って、アクテムラはRANKLの発現を阻害し、破骨細胞の増殖分化を抑制する。さらには上述したように、アクテムラの治療によって血中のMMP3レベルが正常値まで低下するが、このことは関節局所でのMMP3産生が抑制されたことを反映しており、アクテムラによって関節軟骨の破壊が抑制されることにつながる。これが、アクテムラが関節部位における軟骨・骨破壊の進行を抑制するメカニズムであると考えられる。

 

 さらに、関節リウマチは全身性の疾患であり、関節以外の部位にも多様な症状が表れる。これは、IL6が様々な細胞に働いて多彩な生物活性を発揮する(図参照)ためであるが、全身倦怠感、発熱、貧血、食欲不振、体重減少、二次性アミロイドーシス、間質性肺炎などの諸症状が認められる。これらの症状は既存の抗リウマチ薬では十分な治療効果が得られないことが多い一方、アクテムラは、いずれの症状・病変に対しも改善効果をもたらすことが知られており、貴重な新しい治療の選択肢となるであろう。

 

 慢性炎症に伴う貧血にIL6が重要な役割を演じることは比較的最近になって明らかにされた。すなわち、IL6刺激によって肝臓での産生が促されたヘプシジンが、鉄輸送に関わるフェロポーチンに結合するので脾臓での鉄の再利用が妨害を受け、そのために鉄欠乏性貧血が生じる。アクテムラはヘプシジン産生を強く抑制するので、貧血が著明に改善するのである。もう1つの説明はIL6による過剰な信号がエリスロポエチン(EPO)の信号伝達を副次的に抑制する機序が働くとするものである。そのため、EPOを投与しても、この貧血はほとんど改善しない。

 

 アクテムラがなぜ関節リウマチに顕著な効果を発揮するのか、「その答えはこれだ!」と単純明快に説明するのは困難である。免疫のアンバランスを是正して病気の根本に近い所で働くとともに、関節局所においては、血管新生を抑制し、破骨細胞の増殖活性化を抑え、MMP3産生を阻害することで骨・軟骨破壊の進行を抑制することができる。その上、全身性の症状、すなわち、全身倦怠感、食欲不振、発熱、疼痛、貧血などの改善作用が加わり、これらの総合的な働きによって、症状改善をもたらすものと説明することにしている(Ohsugi & Kishimoto, Expert Opin. Biol. Ther., 2008; Ohsugi & Kishimoto, Current Rheumatology Reviews, 2011)。

 

 

 

 

初出:日経バイオテクONLINE 2017年5月8日掲載。日経BPの了承を得て掲載

 

 

 

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