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【アクテムラとわが研究人生 vol.15 関節リウマチの病名変更の経緯】

2024.12.10

関節リウマチの病名変更の経緯

関節リウマチの病態の進展ー適切な治療を受けなければ病状は悪化し、関節 の運動機能が失われる

 

 

 

カルフェニールの後継品としてB細胞阻害薬の研究に着手した1986年頃、全身性エリテマトーデス(SLE)の治療にはステロイドや免疫抑制薬が使われていたが有効性や安全性に問題があり、新薬の開発が強く求められていた。しかし、長年にわたり新薬が開発されない状況が続いていた。

 一方、関節リウマチの薬物療法は1899年に合成されたアスピリンに始まった。患者が訴える痛みを軽減することが治療の目標なので、そのためにアスピリンが処方された。しかし、アスピリンは炎症による痛みを抑えることはできても関節破壊の進行を遅らせることはできなかった。1950年、New York Times誌で、「ステロイドによる治療を受けた寝たきり状態の患者がベッドから起き上がった」と、関節リウマチの治療はこれで解決されたかのように報じられた。しかし、高投与量のステロイドは、長期投与により重篤な副作用を引き起こすことが分かり、それ以降、必要なタイミングに短期間しか用いられなくなった。

 その後、70年代後半に入り、病気の進行を修飾し、関節破壊を遅らせる抗リウマチ薬として、注射金剤、D-ペニシラミン、クロロキンなどが用いられるようになった。注射金剤は結核の治療薬であり、結核に感染した関節リウマチの患者に注射したところ、リウマチの症状が和らいだのがきっかけで関節リウマチの治療にも用いられるようになった。マクロファージ機能の抑制、関節内エラスターゼ、コラーゲナーゼなどの酵素の遊離阻害などが作用機序と考えられている。D-ペニシラミンは金属キレート剤で、銅中毒によるウィルソン病の治療薬である。抗体やサイトカインの産生抑制作用を有している。また、クロロキンも抗マラリア剤として使用されていた薬剤である。

 これらの薬剤はいわゆる遅効性抗リウマチ薬で、疾患修飾性抗リウマチ剤(Disease modifying anti-rheumatic drugs; DMARDs)と呼ばれる。元来、他の病気に使われていた薬に、偶然、関節リウマチに対する有効性が見いだされたもので、それぞれの薬剤の標的分子は不明のまま、なぜ関節リウマチに効くのかは今もはっきりとは分からない。

 そこにさっそうと登場したのが先述の免疫調節薬「カルフェニール錠」だった。今までの抗リウマチ薬とは違い、関節リウマチの動物モデルであるアジュバント関節炎や関節炎を自然発症するMRL/lマウスを用いて有効性を確認した上で開発された薬剤であり、基礎研究から臨床効果へとつながった点で従来のDMARDsとは一線を画する。しかも抑制性T細胞を活性化してゆがんだ免疫機能のバランスを是正するという斬新な作用機序を有する薬剤として世の注目を浴びた。しかし、残念ながら、カルフェニールの標的分子は同定されていないので、抑制性T細胞を活性化する分子メカニズムは今も不明のままである。

 カルフェニールを含めたこれらの薬剤の有効率は決して高いとはいえず、いずれも30%程度でプラセボ群と大差無く、しかも、効く患者と効かない患者にはっきりと分かれ、効果が表れるまで1-3カ月かかる。そして、関節破壊を遅らせることができても、それを食い止めることはできなかった。満足な治療ができずに時間の経過とともに病態が悪化して、手足関節の破壊・変形硬直が進行し、関節機能が低下する患者は依然として後を絶たなかった。50%の患者はやがて歩行困難で寝たきり状態となり(Br Med J.,1973)、平均寿命も10年程度短いと報告された(Ann Rheum Dis.,1981)。

 読者は驚くかもしれないが、今からわずか十数年前まで、「関節リウマチ」という病名は、「慢性関節リウマチ」であった。有効な治療薬が無いのでうまく治療できない。だから「慢性化」するのである。しかし、この病名を告げられた患者にとっては、特に多くの若い女性に発症する疾患であることから、受ける心理的ダメージがあまりにも大き過ぎるという理由から改名されたのである。病気の原因や病態の進展のメカニズムが解明されていないので、新薬の開発は、ある意味では制癌剤よりも難しいといわれていた。

 このような状況下、B細胞を調節する免疫調節剤が根本的治療薬になるのではないかと考えて探索研究を開始するのは、極めてリスクの高い勇気の要る挑戦であったといえる。

 

初出:日経バイオテクONLINE 2016年12月19日掲載。日経BPの了承を得て掲載

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