大杉バイオファーマ・コンサルティング株式会社は医薬品のグローバル開発をサポート致します。

03-5806-9776 9:00~18:00(定休日:土・日・祝)

英語サイト切り替えボタン

お問い合わせボタン

COLUMNS

【アクテムラとわが研究人生 vol.20 オープンイノベーションのすすめ】

2025.01.14

オープンイノベーションのすすめ

 

 

 

 ちょっと先走った話の内容になるが、アクテムラの成功に産学連携の果たした役割は大きかったと思う。大阪大学を介して中外製薬には多くの海外アカデミアから、常に最新情報が入ってきた。そして、そのようにして形成されたネットワークのおかげで、その時々のバイオテクノロジー、遺伝子操作マウスなど先端技術を駆使して研究開発を発展させることができた。それらの技術がIL6の生理的意味を明らかにし、様々な疾病におけるその役割解明につながった。そして、IL6の活性を中和する抗IL6受容体抗体が、これらの病態を改善することを明らかにできた。

 「企業秘密」という名目で、研究を企業内で完結させようとする向きも多い時代だったが、私は迷いなく大阪大との共同研究の道を選んだ。産学連携により研究のスピードと質を上げることで、成功への道を短縮でき競争に勝利したのである。今日、グローバル競争が激化する中、オープンイノベーションという言葉をよく耳にするようになったのは好ましいことだと思う。

 ここで1つ強調しておきたいことがある。それは、自己の研究レベルを上げることが最善のパートナー探しにつながるという点だ。中外で継続して実施された自己免疫疾患の病因解明の努力と実績があってこそIL6研究で世界を先導する大阪大との連携が生まれた。研さんを重ね、自己のレベルを最大限高めることが、良きパートナーを探し出し、そして学側から研究相手として選んでもらうための決め手である。これは産側に限ったことではなく、学側にも同じように当てはまることであろう。そういう意味でアクテムラのケースは中外と大阪大がベストパートナーだったと自負している。

 さらに付け加えると、「産」と「学」は元々目指す目標が異なると認識していたことが産学連携の成功の要因ではないかと思う。「学」が基礎科学の発展に貢献することに専念し、「産」がこれを全面的に支援する。「産」はそこから得られた情報を駆使し、医薬品開発に最大限尽力する。産学両者が同じ方向を向いて研究していないことが成功の秘訣である。ここでも「産」の科学的実力が「学」のそれに匹敵するレベルまで押し上げられるかどうかが成否の決め手となる。

 読者の中には、なぜ中外は独力でIL6阻害剤を探そうとせず、大阪大との共同研究の道を選んだのかと疑問を持つ方が居るのではないか。今、その理由を思い出そうとしても思い出せない。記憶が無いのは、私には何の迷いも無かったからだろう。恐らく、考えたのはゴールに一番乗りするにはどうすれば良いのか、なのだろう。研究には競争が付き物、競争に負けては何も残らない。研究には銀メダルは無いのである。勝つためには強力な味方が居た方が良いに決まっている。産学連携というものの威力、価値の大きさ、重要性を認識できていたのだと思う。多くの企業研究者は共同研究をすれば、その成果は両者で分配しなければならないので半減する、単独で実施すれば成果は独り占めできると欲をかく。しかし、それでは大抵競争に負け、利益を手にすることは難しい。成果が半減しても勝者になるためにはちゅうちょすることなく産学連携の道を選ぶべきだと、私は思う。

 実際、もし中外単独で低分子化合物の探索を実施していたらと仮定すると、IL6を阻害するリード化合物が見つからなかった時点で万事休すとなっていただろう。私の研究人生を振り返ってみれば、駆け出し時代からアクテムラ成功まで外部との共同研究の連続であった。私のこの研究姿勢・方式は、入社後数年間の先輩の指導と研究所の文化から生まれたのであろう。西井先輩が就職を勧めてくださったときの「中外では、自由な研究が伸び伸びとできる」という言葉が、本当にその通りだったと思う。研究成果を積極的に学会発表し、第一線級のアカデミアの先生方と顔見知りになる。また、研究論文として雑誌に投稿し研究実績を高め、知名度を上げることに役立てた。学会では、会員懇親会が催されるので、必ず出席して、有名な先生に対して物おじせずに勇気を出して話し掛け、交流を深める努力をした。また、論文を読んで、自身の研究に役立ちそうなことがあれば、知り合いの先生に頼んででも紹介していただいて共同研究を持ち掛けることも多かった。このような習慣が私の人脈を広げることに寄与し、研究の発展をもたらしてくれたのかもしれない。

 

初出:日経バイオテクONLINE 2017年1月30日掲載。日経BPの了承を得て掲載

一覧へ

NEWS

COLUMNS

大杉バイオファーマ・コンサルティング株式会社 Ohsugi BioPharma Consulting Co., Ltd.

〒111-0032
東京都台東区浅草1-39-11
デンボービル5F
TEL 03-5806-9776
FAX 03-3843-8188

access

mail

グループ企業

株式会社フューチャー・オポテュニティー・リソース

CMC関連用語集