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【アクテムラとわが研究人生 vol.18 危機を救ったIL6】

2024.12.31

危機を救ったIL6

 

 

 

 私のアクテムラ創出人生には幸運がつきまくったのだが、中でもインターロイキン(IL)6を発見したのが大阪大学教授の岸本忠三先生だったのは、私にとって最高の幸運だった。他のどの研究者がIL6を発見していたとしても、アクテムラの誕生は無かっただろう。一緒にアクテムラの研究開発を推進できたのは、運命のなせる業としか言いようがない。なぜなら、私たちは幼なじみだったからである。先生のお母さまは私の生家の隣の家で生まれた。私の父よりも1つ年下である。盆正月に先生がお母さまの里帰りに伴われて隣家に来られた折には、先生の従兄たちに交じって私たち兄弟も一緒に仲良く遊んだものである。

 そんな縁で、岸本先生が大阪大の医学部を卒業して、免疫学の領域で研究をしておられることを折に触れて耳にしていた。研究領域が共通しているので、免疫関連の研究会や学会でよくお見かけしたし、第三内科の研究室に2、3度お邪魔したこともある。留学先を探す過程で、海外での生活を心配した父に伴われて先生のお宅に伺い、海外での研究生活の経験豊富な先生から、留学先の選択法についてアドバイスしていただいた。親というものはありがたいものである。

 その岸本先生が1986年に衝撃的な発表をする。IL6が自己免疫疾患を誘導する原因因子であることを強く示唆するものだった。確か、京王プラザホテルで開催された日本炎症学会総会の発表会場でそれを聞いたと記憶しているが、その時とっさに「我々が自己免疫マウスで探し求めていたB細胞活性化因子はIL6そのもの、あるいはそれに似た因子ではないのか。それなら、IL6阻害剤がB細胞をコントロールできる革新的な自己免疫疾患治療薬になる」と直感し、体の中を電撃が走った。

 その発表の内容は次のようなものだった。大阪警察病院に入院した心房内粘液腫の患者に、下記のような自己免疫疾患に類似した血液学的検査所見と臨床諸症状が認められた。すなわち、CRP(C-reactive protein)高値、高γグロブリン血症、自己抗体、ESR(血液沈降速度)亢進が認められ、関節痛、全身倦怠感、発熱、食欲不振などの全身症状も訴えた。関節リウマチなどの慢性炎症性疾患に類似した所見である。ところが、手術によって腫瘍を摘出するとそれらの症状はきれいさっぱり消失した。そして、摘出した腫瘍細胞を培養したところ培養液中に大量のIL6が検出された。これらのことから、IL6がこれらの全ての症状の犯人であることが強く示唆された。

 この発表から衝撃を受けたもう1つの理由は、T細胞ではなく癌細胞が産生するIL6が、自己抗体産生を誘導したことである。これは、前述のマウスでの自己免疫疾患のB細胞原因説を裏付ける決定的な発見だと感じさせるものだった。すなわち、T細胞が存在しなくても、他の細胞から過剰に産生されたIL6が直接B細胞に働くことによって、自己免疫疾患が発症するとした我々の考えが臨床でも示唆されたと思ったのである。

 我々が途中で諦めた自己免疫疾患モデルマウスにおけるB細胞分化誘導活性の本体究明に関する研究、米Scripps Clinic and Research FoundationのTheofilopoulus博士が発見したl-BCDF、そして大阪大の浜岡先生が見いだしたTRF2は、いずれも最終ゴールへの到達はならなかったが、自己免疫疾患研究を専門に研究するグループを尻目に基礎免疫学の本道を歩んだ岸本先生のグループによって自己抗体産生の仕組みが解明されようとしているのであった。皮肉な結果というか、新しい発見というのはこういった思いがけない偶然から生まれるということであろう。

 かくして、B細胞阻害剤のスクリーニング系の樹立を試行錯誤している中、岸本先生らによって格好の標的分子IL6が見いだされたのである。その後、すぐに産学連携へと事態は進展する。

 

初出:日経バイオテクONLINE 2017年1月17日掲載。日経BPの了承を得て掲載

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