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【アクテムラとわが研究人生 vol.6 駆け出し研究者時代】

2024.10.08

駆け出し研究者時代

ツベルクリン反応に対するミコフェノール酸(MPA)の影響を調べた実験データ。

MPAを象徴する特徴で、細胞性免疫の成立を抑制するのみならず、抗アレルギー作用を発揮することを示した

 

 

MPAはマウスの同種間の皮膚移植後の生着日数中央値(MST)を延長させるが、

投与開始を遅くした方が強い効果が得られた。 MPAの最大の特徴が表れている

 

 入社翌年から数年後にかけての1970年代初頭、私は免疫抑制剤ミコフェノール酸の研究に没頭した。そのきっかけをつくったのは前出の鈴木先輩である。鈴木さんらは、ミコフェノール酸の核酸合成阻害作用に着目し、マウスで抗体産生抑制作用を検討した結果、免疫細胞の増殖抑制を介して、強力な抗体産生抑制作用を発揮することを見いだしていた。

 鈴木さんの勧めで、私は、ミコフェノール酸の免疫抑制剤としてのポテンシャルを見極めるため、細胞性免疫を抑制できるかどうかを調べようと考えた。免疫抑制剤の対象となる臓器移植時の拒絶反応は、細胞性免疫によって誘起されるからである。そこで、所属する研究室の室長である小山憲次郎さんの紹介で、国立予防医学研究所結核部の橋本達一郎先生の研究室で、遅延型過敏反応であるツベルクリン反応に対するミコフェノール酸の効果を調べる実験を行った。モルモットを結核菌で免疫し、感作が成立した後に結核菌精製抗原(PPD)を腹部皮内に注射して24時間後に表れる遅延型皮膚反応(ツベルクリン反応)を観察するという方法である。

 結果、結核免疫の成立をミコフェノール酸は見事に抑制した。しかも、免疫反応の成立を抑制するばかりではなく、既に感作の成立した動物にツベルクリン反応を引き起こす際に投与しても抑制作用を示すことが分かった。また、結核菌に対する感作リンパ球を非免疫モルモットに移入して受動免疫された動物においても抑制作用が認められた。さらに、遅延型過敏反応のケミカルメディエーターである皮膚反応因子(skin reactive factor、SRF)によって誘起される皮膚反応に対しても抑制効果を示したのである。すなわち、細胞性免疫の成立を抑制するだけではなく免疫が成立した後の遅延型過敏反応をも阻害するという大変興味深い事実が明らかになった(1975年に「アレルギー」誌に論文発表)。

 腎臓などの移植臓器に対して起こる拒絶反応は、同じ遅延型反応であることが知られていたのでミコフェノール酸に免疫抑制剤としての可能性があると思ったが、開発を進めるためにはマウスの皮膚移植実験系で有効性を示す必要性が出てきた。そこで、我々の研究所に隣接する(財)東京生化学研究所の橋本嘉幸さんにお願いして、東京大学医科学研究所外科学教室助教授の藤井源七郎先生を紹介いただき、数種類の純系マウス間での皮膚移植を実施したところ、ミコフェノール酸はいずれに対しても拒絶反応を抑制した。

 特筆すべき点は、皮膚移植後の早期よりも、後期に投与を開始した方が、より優れた効果が得られるという事実であった。前述のモルモットにおける受動免疫抑制作用と合致している。これは、従来の免疫抑制剤が、移植前に投与するか、移植後早期に投与しなければ拒絶反応を抑制しないのに反し、大変ユニークな特徴で大きな利点を備えているといえる。成果は72年、和文学術誌「移植」に掲載され、私の処女論文となった。

 思い出話であるが、藤井先生は、マウスに皮膚移植手術をしている私の指先を見ながら、「器用な人の指は共通して、爪の先端よりも肉が外側に出ているんですよ」と、おっしゃった。外科医から手術がうまいと褒められ、自信を強めた。それ以降、小動物への静脈内注射や眼窩静脈採血は難なくこなし、胆管カニューレ挿入術、胸管リンパ管カニューレ挿入術、胸腺摘出術など手術はなんでも器用にこなせたと自負している。優れた研究成果を挙げるためには優れた実験技術が大きな武器となるので、手先が器用なのは幸運であった。親からの贈り物に感謝せねばならない。

 中外製薬はビーグル犬の近交系コロニーを保有していたので、ビーグル犬の腎移植に対するミコフェノール酸の効果を検討してもらえないかと藤井先生に打診したところ、同外科学教室講師の松倉先生に実験してもらえることになった。私は手術室に入り先生の助手を務めた。この時、細い血管をつなぎ合わせる手技を初めて目の当たりにして、外科医の器用さに感心した。結果は、ミコフェノール酸の効果は明らかに認めたものの、激しい下痢を引き起こすことが分かった。典型的な免疫抑制剤の副作用であるが、これでは薬として開発することは無理だと判定された。私も同意して開発が頓挫した。

 一方、鈴木さんらは、ミコフェノール酸を抗腫瘍薬として開発することを目指していた。より優れた「モノ」を発明するために、ミコフェノール酸を親化合物として様々な構造を有する誘導体が、有機合成化学者の森陸司さんと高久栄さんによって合成された。

 ここで、私にある発想が浮かんだ。それは、誘導体の中から「抗腫瘍活性が強いが免疫抑制作用は弱い」、そんな誘導体が見つかれば副作用の少ない理想的な抗腫瘍薬になるだろうというアイデアである。頭の良い研究者なら行動を起こさないリスクの高い発想である。なぜなら、腫瘍細胞も免疫細胞も増殖の盛んな細胞であるという点では同じであり、ミコフェノール酸が双方の細胞種に対して同じように作用するはずと考えるのが常識だからである。

 しかし、無謀とも思えるようなこの非常識な発想が見事にヒットし、誘導体の中から免疫抑制作用を示さずに強い抗腫瘍活性を有する化合物を発見した。私は、「してやったり」、と米国立癌研究所(NCI)に留学中の鈴木さんに論文の原稿を送った。すると鈴木さんは「NCIのボスの青木忠夫先生に校閲を頼んでやる」と言い、青木先生はCancer Research誌への投稿に賛同してくださった。青木先生からは、「Discussionは短いけど、まあ簡潔で良いでしょう」とのコメントも頂いたが、Discussionが短かったのは、私にとって英語論文の処女作であり、英文で気の利いた考察を展開する能力はとても無かったからである。76年に一流国際誌Cancer Researchのエディターから受理の返事を受けた時はさすがに興奮した。

 ミコフェノール酸誘導体の免疫抑制剤や抗腫瘍薬としての研究はその後挫折するが、その過程で同化合物が抗アレルギー作用を有することを見いだしたことで新たな展開を見せる。

 

初出:日経バイオテクONLINE 2016年10月17日掲載。日経BPの了承を得て掲載

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